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最高裁判所大法廷 昭和39年(さ)9号 判決 1965年4月28日

主文

日南簡易裁判所が、本件を管轄地方裁判所に移送することなく、森林法違反の罪につき、懲役刑を選択処断した手続を破棄する。

理由

本件非常上告申立の理由は、末尾添付書面記載のとおりである。

よって記録を調査するに、日南簡易裁判所は、昭和三七年八月二一日、「被告人両名は共謀のうえ、第一、昭和三七年五月一六日午後一一時頃、南那珂郡北郷町大字北河内字河原谷の部分林において福田末吉管理の杉立木五本を伐採して窃取し、第二、(一)同年五月二一日頃の午後一一時頃、同郡同町同大字鎮瀬戸の道路端土場に置いてあった百野弥三郎等所有に係る杉丸太材二本を窃取し、(二)同年六月一八日頃の午前一時頃、同郡同町大字大藤字桜原の道路端土場に置いてあった喜多輔市所有の杉丸太材四本を窃取したものである」との事実を認定し、右第一の所為は森林法一九七条罰金等臨時措置法二条刑法六〇条に該当するので所定刑中懲役刑を選択し、第二の各所為は刑法二三五条、六〇条に該当するところ、以上は同四五条前段の併合罪の関係にあるから同四七条本文一〇条に則り犯情の重い第二の(二)の窃盗罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で被告人両名を各懲役刑に処すると共に、同二五条一項に従いその情状刑の執行を猶予するを相当と認め、「被告人両名を各懲役一年に処す、但し、三年間右各刑の執行を猶予する」との判決を言い渡し、この判決は上訴申立期間の経過により確定するに至ったことが明らかである。

しかしながら、簡易裁判所は、森林法違反の罪につき懲役刑を科するのを相当と認めるときは、事件を管轄地方裁判所に移送することを要し、自ら裁判することが許されないことは、裁判所法三三条二項、三項によって明白である。そのことは、本件のように森林法一九七条違反の罪と窃盗罪とが刑法四五条前段の併合罪の関係にあるときにおいても同様である。それにもかかわらず、日南簡易裁判所は、本件森林法違反の罪につき懲役刑を科するのを相当と認めながら、事件を管轄地方裁判所に移送することなく、自ら裁判する手続をしたのであるから、その訴訟手続は、法令に違反したものであるといわねばならない。

本件非常上告は理由がある。

よって刑訴法四五八条二号に従い、右簡易裁判所がなした前示訴訟手続を破棄すべきものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)

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